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ローランド地方のダンフリースシャーに、アナンデールという蒸留所がかつてあった。1920年に閉鎖された、いわゆる失われた蒸留所だ。蒸留設備は閉鎖後間もなく撤去されたが、建物はほぼ完全な形で残されている。そのアナンデール蒸留所が、ほぼ90年ぶりに復活しようとしている。来年の夏の終わり頃には、操業を開始する予定だという。
アナンデールを甦らせたのは、実業家で大学教授でもあるデイヴィッド・トムソン氏だ。2007年に蒸留所を買い取り、同年に夫人のテレサ・チャーチさんとともにアナンデール・ディスティラリー社を創設した。蒸留所再建は英政府からも奨励され、補助金が出たという。
旧アナンデール蒸留所は、農夫のジョージ・ドナルドによって1830年に創業された。仕込水は、街に引かれているものと同じミドルビー川からの水を使用し、冷却や動力用にはガリーランズ川から引いた水を使った。1887年、老朽化した設備や建物が改築される。動力は水車に代わって蒸気タービンが設置され、煙突はブロック製の大きなものに置換された。1920年、当時のオーナーだったジョン・ウォーカー&サンズ社が閉鎖を決定。1924年以降、敷地はロビンソン家によって農場として使用されてきた。
オリジナルのアナンデールの蒸留設備に関する記録は、何も残されていないという。すなわちアナンデール復活は、新生アナンデールの誕生だということもできる。これについては、2008年1月14日付けの The Scotch Blog に、興味深いインタビュー記事が載っていた。ブログ筆者のケヴィン・アースキン氏は、「かつてのアナンデール・ウイスキーの味を知っていたり、あるいはウイスキーのサンプルを持っている人物が、もしいたらどうしますか?」と尋ねている。それに対しトムソン氏は、「もしいたとしても、恐らく名乗り出てはくれないでしょう。そもそもアナンデールのウイスキーは、そのほとんどがブレンデッドのジョニーウォーカーの原酒として使われていたはずなので、ボトリングされたシングルモルトは少なかったのではないでしょうか。それにアナンデールのシングルモルトは、実はたいして美味しくなかった、そんな気が私はするのです。」と答えている。
「実はたいして美味しくなかった」というトムソン氏の考えは、まるでイソップ童話の「狐と葡萄」のようだが説得力はある。もし本音だとすれば、オリジナルにこだわる動機は、彼にとってはまったくないわけだ。ともあれ、蒸留所の数が少ないローランドで、新しいウイスキーが誕生するのは喜ばしいことである。早ければ2014年には、アナンデールのシングルモルトが飲めるかもしれない。