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とうとう出たかという感じだが、70年物のウイスキーが今月の11日にリリースされた。モートラックのシングルモルトで、発売したのはG&M(ゴードン&マクファイル)社だ。同社が1938年ヴィンテージの樽をまだ持っているという話は以前からあったので大きな驚きはないが、“70年”というウイスキーにそぐわない数字に対してはある種の感慨をおぼえる。GM社はかつてモートラックの60年物も発売しているが、40%に加水してボトリングされていた。しかし今回はカスクストレングスの46.1%で詰められており、この違いは大きい。
なお60年物のウイスキーなら、数は少ないがこれまでにいくつかボトリングされている。いずれもシングルモルトだが、例えばマッカラン60年(1926年蒸留, 42.6%)、ベン・ネヴィス63年(1926年蒸留, ?%)、ロイヤル・ブラクラ(1924年蒸留, 40%)等だ。しかし「70 year old」とラベルに表記されたウイスキーは今だかつてない。
GM社のオフィシャルサイトにはテイスティングノートが載っているので転載しておく。恐らく発表会に招かれたウイスキー専門家のチャールズ・マクリーン氏のテイスティングだと思われる。
色: |
太陽の光で漂白された光沢のあるマホガニー。
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香り: |
柔らかなアロマ。ろうそくと果実がすぐに現れる。初めはただのロウソクだが、火が消されて一筋の煙が立ち上るロウソクに変化。マデイラケーキに埋まっているマラスキーノチェリーと、しばらくしてオレンジを思わせる新鮮でジューシーなシトラス系の香り、その後アプリコットジャムが前面に。薄く削ったアーモンドと花の香りも現れ、軽いココナッツオイルに変化していく。
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味: |
驚くほど元気がよく、味わいがはっきりとしている。スムースで滑らかな口当たり。最初は甘みが感じられるが、その後ややドライなテイストに変化。しかし、渋みはそれほど強くない。ドライイチジクとタバコのニュアンス、そして興味をそそるほのかな煙。余韻には、かんなで削られた硬材(広葉樹)のニュアンスが感じられ、長く後を引く。ティースプーン1杯の水を加えると、テクスチャーはさらにスムースに。新鮮でほのかな甘みは、梅のような心地いい酸味に変化し、すすのような煙がフィニッシュを締めくくる。
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コメント: |
すばらしい! くたびれた樽や、もろみ、だぼ栓に被せる布のニュアンスはまったくなく、繊細で新鮮、いきいきとしていてフルーティなウイスキー。独特なワックスと煙の風味は今日ではあまり見かけないが、1960年代以前のウイスキーにはよく見られた特徴だ。
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このモートラック70年だが、GM社が今回新たに作った「ジェネレーションズ」と名付けられたシリーズの第1弾ボトルだという。発表会は、エディンバラ城で賑々しく行われたとのこと。価格は10,000ポンド(約135万円)で54本限定だ。決して安い値段ではないが、まあ妥当な金額ではないだろうか。なお、200ミリリットルの小型ボトルも、2,500ポンドで162本販売することになっている。
※エディンバラ城での発表会の動画を、YouTubeで見つけたのでアップしました(5/23)
あらかじめ断っておくがこのネタはジョークだ。ヒトラーが安ウイスキーに不平をいい、シングルモルトへの思慕を語るパロディ動画がYOUTUBEにアップされている。
キドゥーシュ・クラブというのは非公式なユダヤ教の団体のことで、そのユニークで奔放な活動はシナゴーグ(集会や礼拝堂のこと)の品位や尊厳を貶めるものだとして、改めるようにとの勧告を正統派から受けている。なおキドゥーシュというのはユダヤ教における安息日(土曜日)の祝祷(礼拝のあとに捧げる祈り)のこと。祈りが終わるとワインやブドウジュースを飲む慣わしがある。
この動画のベースは、映画「ヒトラー ~最期の12日間~ (Tribute DER UNTERGANG)」だ。それにふざけた字幕スーパーがかぶせてある。ストーリーの設定は、キドゥーシュ・クラブの攻略に手を焼くドイツ軍、舞台は戦況の報告を受け苦渋の表情を浮かべるヒトラーと、おろおろと顔色を窺う参謀たちというもの。ヒトラーはマシンガンのように不平不満をぶちまけ、挙句にはキドゥーシュ・クラブへのねたみを口にし始める・・・。
2:09からのヒトラーのセリフ。「最近、奴らはシングルモルトを飲んでいるそうじゃないか! グレンフィディック! グレンロセス! グレンモーレンジ! バルヴェニー! ラガヴーリン!」 このあとに、ゴミウイスキー呼ばわりされるブレンデッドが名指しで登場し、思わず苦笑。
元の映画はもちろんカラーだが、この動画は古いフィルムのような加工がされている。また最初と最後に挿入されたテロップとアナウンスも違和感がなく、とても完成度が高い。
Spinning Roulette Whisky Tumbler from FindEatDrink on Vimeo.
コマのように回るウイスキーグラス。
あれれ、どうなってるの?と思ったら、下面の中心にわずかな膨らみがついているようだ。
スコットランド人の探検家、アーネスト・シャックルトン(1874-1922)が南極探検の際に持ち込んだウイスキーが、いまだに南極大陸に残されている。これまでにも発見され回収された記録はあるが、このたびまた新たな発掘作業が行われたという。
彼らが拠点として使用した小屋の床下から、2箱ほどのウイスキー見つかったのは2006年1月のこと。昨年末には発掘が計画され、先日これらのウイスキーが掘り起こされ回収されたと、今月6日付けでAFP通信が伝えた。この小屋はロス島のロイズ岬にあり、シャクルトン卿率いる探検隊が1907年から09年にかけての探検で使ったという。すなわちこのウイスキーボトルは、約1世紀もの間氷の中に埋もれていたことになる。当初2箱だろうと思われていたウイスキーだが、掘り起こしてみたところなんと5箱あったという。そのうちの2箱はウイスキーではなくブランデーだったらしい。あたりはウイスキーの香りが漂い、何本かはボトルが破損している可能性が高いという。しかし液体が揺れる感触もあったそうで無事なボトルもありそうだというが、開けてみるまではわからない。
アーネスト・シャックルトンといえば、南極大陸を横断中に遭難したにもかかわらず、27人の隊員たち全員を奇跡的に生還させた人物としても有名だ。しかしこのときの探検は1914年から17年にかけて行われており、ウイスキーの見つかったロイズ岬の小屋はその時に使ったものではない。残念ながら、伝説の物語との直接の繋がりはないようだ。
さて見つかったウイスキーだが、ブレンデッドスコッチのマッキンレーズである。南極探検隊のオフィシャルスコッチとして、アーネスト・シャックルトンがマッキンレーズを選んだという話はつとに有名で、同ブランドの宣伝に大いに貢献した。もともとマッキンレーズはチャールズ・マッキンレーが1815年に創業したマッキンレー社によって造られていたブレンデッドウイスキーだが、現在はインドUBグループ系列のホワイト&マッカイ社がこのブランドのライセンスを持っている。
ホワイト&マッカイ社のマスターブレンダー、リチャード・パターソン氏は、この発見について「これはウイスキーファンへの、天国からの贈り物ではないでしょうか。」とコメントしている。そして、「もし中身を問題なく取り出せ分析できたなら、100年前のマッキンレーズを復元できる可能性があります。実は当時のレシピはすでに失われてしまい、もう存在しないのです。これまで閉ざされていた歴史の扉を、開けることができるかもしれません。」とも述べている。
マッキンレーズは、かつてはよく飲んだブレンデッドだ。最近のは飲んでいないのでわからないが、とても美味しいスコッチだという印象がある。特に特級表示の頃のレガシー12年は格別だった。100年前のマッキンレーズがどんな味なのかは想像もつかないが、ぜひとも復元して欲しいものだ。
1月25日付けの英タイムズ紙に、タイワニーズウイスキーの興味深い記事が載った。4名のウイスキー愛好家によって5種類ほどの若いウイスキーのブラインドテイスティングが行われたが、その中で台湾のカヴァランウイスキーが最高点を獲得したという。その中にはイングリッシュウイスキーのセントジョージズ・チャプター3(なかなか旨い!)や、アイラ島のビッグネームのシングルモルトが含まれていたというから、ますます興味は深まる。
先月の24日にタイムズ紙の記者の主催で、エディンバラのリースにある歴史あるレストラン・ヴィントナーズルーム(Vintners Rooms)でテイスティング会が開かれ、4名のウイスキー愛好家が招かれた。そのうちの一人は作家でウイスキー専門家でもあるチャールズ・マクリーン氏だ。陽気な雰囲気の中テイスティングは終了し、得点の集計結果が発表された。だが最高得点がタイワニーズウイスキーのカヴァラン(Kavalan)だと知らされた途端、テイスターたちは目を見張り会場の雰囲気は一変したらしい。マクリーン氏は「おお、神よ・・・。」とつぶやき、別のテイスターは「今日は4月1日ですか?」と尋ねたという。その場にいたテイスター以外の人々からも、「信じられない・・・」「素晴らしい!」「ああ、まさか・・・」といったつぶやきが漏れていたそうだ。
チャールズ・マクリーン氏は、30年以上もウイスキーと関わってきたベテランだ。ちなみに他のテイスターたちは、ジンの専門家ジェラルディーン・コーツ氏、酒類販売業を営むズバイル・モハメド氏、そしてシナリオ作家のポール・レヴァティ氏といった面々。レヴァティ氏は、昨年カンヌ映画祭で話題になったケン・ローチ監督の「Looking for Eric」でも脚本を書いた人物だ。
カヴァランウイスキーは、台湾東北部のイーラン(宜蘭)にあるキング・カー蒸留所で造られている。ここは2008年に建造されたばかりの蒸留所で、台湾で操業している唯一の蒸留所でもある。カヴァランウイスキーは現在4種類が製造販売されているが、そのうちの3種類はシングルモルトという本格的な蒸留所だ。輸入ウイスキーを製品に一切使用していないかどうかは不明だが、キング・カー蒸留所で造られたウイスキーに限っていえば、熟成年数は最長でも2年ということになる。今回のテイスティングに出されたカヴァランも2年物だそうで、実はスコッチの定義に当てはめるとまだスピリッツであり、ウイスキーとは呼べない。
さて気になる2位以下のウイスキーだが、全順位を以下に列挙する。なお点数は40点が満点だとのこと。
1位 (27.5点) : カヴァラン (タイワニーズ, 2年物)
2位 (22.0点) : ラングス・プレミアムブレンド (スコッチ, 3年物)
3位 (20.0点) : キングロバート (スコッチ)
4位 (15.5点) : セントジョージズ・チャプター3 (イングリッシュ, 3年物)
5位 ( 4.5点) : ブルイックラディX4 +3 (シングルモルトスコッチ, 3年物)
やはり注目すべき点は、2年熟成のカヴァランが3年熟成の“ウイスキー”を抑えてのトップだということだろう。台湾の気温はスペイサイド地方より、年間を通して20℃近く高いのだという。すなわちそれだけ熟成が早く進む訳で、若いウイスキーのうちは、少しでも熟成感のあるほうが美味しく感じるということなのかもしれない。ただ、熟成の速度が速いことと、いいウイスキーが出来上がることとは本来なら別の話だ。
あとは目を引くのは、やはりというべきかブルイックラディX4の“4.5点”だろうか。マクリーン氏はブルイックラディX4について、「食用油でもディーゼル油でもなく、機械用油の風味だ。」という辛辣なテイスティングノートを残したらしい。ブルイックラディX4は、私はTHE Whisky Worldで72点をつけたが、熟成させていないニュースピリッツ・バージョンだったので多少評価は甘かったかもしれない。
このテイスティング会だが、2006年からイングランドで本格的にウイスキー造りが始まったことを受け、改めてスコッチウイスキーの素晴らしさを見直そうという意図のもと、バーンズナイトに合わせて開催されたものだという。こういう皮肉な結果に終わったことはスコッチファンとしては複雑な心境だが、日本も含めたアジアンウイスキーの輝かしい未来を想像することもまた楽しい。