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毎年1月25日には、スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズの生誕を祝う「バーンズ・サパー」が、至るところで開かれる。今年は、ちょうど250周年なのだそうだ。
スコッチ業界も例年以上の賑わいを見せているが、その中でエドリントン・グループが記念ボトルとしてフェイマス・グラウスの37年物(バーンズは37歳の若さで死去している)を250本限定でリリースした。ちなみにこのフェイマス・グラウス、中身はブレンデッド・モルトだそうで、マスター・ブレンダーのジョン・ラムゼイ氏が1971年の最初に蒸留された原酒を厳選してヴァッティングしたものだとのこと。
ラベルにも手がかかっている。スコットランドの芸術家で劇作家としても知られる、ジョン・バーン氏の描いたロバート・バーンズの肖像画がプリントされているのだ。バーン氏はビートルズのレコードジャケットのイラストなども手がけたことがあり、本国での知名度はとても高い人物。
ただしこのボトルは、チャリティ・オークション専用の商品だという。そこで落札しなくては、実は入手できないのだ。順を追って説明すると、このフェイマス・グラウス37年を入手するためには、まずロバート・バーンズの生誕を祝うイベントを開催しなくてはならない。これは特に形式は問われず、プライベートなものでも問題ないとのこと。そしてそこで何らかのチャリティ・オークションを開く必要があり、それらの内容はwww.burnssupper2009.comにあらかじめ登録しておかなくてはならない。現時点で1,500ものイベントが世界中から登録されているという。なお競り値は、400ポンドからスタートせよとのことだ。
イベントの形式や、入札者の資格は確かに問われていない。しかし、手段と目的が逆転している後付けの慈善活動に、後ろめたさを感じないという図太さは要求されるようだ。登録はまだ間に合うので、その点に自信のある向きはぜひトライされたい。
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
mixiにも書いたが、今月の24日にスコ文研主催の ウイスキーフェスティバルが開かれる。小会場の4こま目のトークセミナー、 「ザ・テイスター座談会」では私も出演するのでここでも宣伝をさせていただこうと思ったのだが、残念ながらこのセミナーのチケットは昨日完売したとのこと。 お買い求めくださった皆さんには、厚くお礼を申し上げたい。
さて、その代わりというわけではないのだが、来月の座談会形式のセミナーの案内をさせていただこうと思う。、これは、本来は資格認定試験の受験者のための講座なのだが、受講資格はとくに問われていない。まだ定員枠にも余裕があるようなので、ご興味のある向きにはお気軽にご参加いただけたらと思う。
『テイスティング専科』
講 師: 谷嶋元宏・吉村宗之・土屋 守
日 時: 2009年2月28日(土)15:00~16:30
会 場: 飯田橋レインボービル 中会議室
東京都新宿区市谷船河原町11番
Tel. 03-3260-4791
今月の3日に、イングランド南部にあるリュースという町(イースト・サセックス州の州都でもある)でオークションが開かれ、地元ダイバーのボブ・パート氏が興味深いウイスキーを出品した。そのウイスキーとは、1941年から半世紀以上も沈没船とともに海の底で眠っていたスコッチのバランタイン。1970年にパート氏は、英デイリー・ミラー紙からの依頼を受け、ダメージを受けていない6本のウイスキーを回収したのだという。今回出品されたのは、そのうちの1本だとのこと。
その沈没船とは、1941年2月5日にニューヨークへ航行中だったSSポリティシャン号。スコットランド北西の大西洋上に浮かぶアウター・ヘブリディーズ諸島のエリスカー島北岸の沖で、砂州に乗り上げ沈没した。乗組員たちが避難し船がサルベージを待つ間に、地元の漁師が船に忍び込んで大量の密輸ウイスキーを発見。そして彼らはなんと、夜の闇に乗じてウイスキー等の積み荷を運びだしてしまったのだ。積まれていたウイスキーは240,000本とも260,000本とも言われ、そのうちの1割が彼らによって運び出されてしまったとのこと。略奪に加わった19人の島民はその後起訴され、1か月間投獄されたという。
その実話をもとにコンプトン・マッケンジーによって書かれた小説が、かの『ウイスキー・ガロア! (1947)』だ。この本はロングセラーとなり、今でも多くのスコットランド人に愛され続けているという。またこの物語は、小説が出版された翌々年に同名のタイトルで映画化もされた。映画はドタバタのコメディで、略奪の様子がユーモラスに描かれている。なおエキストラとして登場する島民たちだが、すべて実際の島民なのだそうな。
ただし、SSポリティシャン号のウイスキーがオークションに出されたのは今回が初めてではない。サウス・ウイスト島のアマチュアダイバーがサルベージした8本のウイスキーが、1987年のクリスティーズのオークションに出品され£4,000で落札されている。また10年ほど前には、空瓶だが何本かがオークションにかけられたこともあるという。
今回のバランタインの落札価格は2,200ポンド。見事落札したのはパリに住む18歳の青年だという。落札後、彼は次のようにコメントしている。「“ウイスキー・ガロア!”は、子供の頃に、楽しく読みました。今回オークションにそのウイスキーが出品されることを知り、入札しようと決めたのです。正直に言うと、ずいぶんと過小評価されているなとは感じました。このウイスキーは飲みたいです。でも飲まずにこのまま保存しておこうと思っています。」
出品したボブ・パート氏は、ウイスキーよりは赤ワインがお好きだとのこと。「今回の落札の結果には大変満足しています。このウイスキーを拾い上げてきた当時は、こんな高値で売れるとは思いもしませんでした。今頃は家族が、臨時収入を楽しみにしていることでしょう。このウイスキーの背景にある物語に多くの人々が興味をもってくれることは、とても嬉しく思います。中身はコルクを通して蒸発して2センチほど目減りしていますが、きっと飲めるはずです。」と、彼はコメントしている。
なお、かつてSSポリティシャン号からサルベージされたウイスキーが、実際に加えられたブレンデッドスコッチが1,400本限定で発売されたことがあった。その名もずばり『SSポリティシャン (SS Politician)』。近年ダンカン・テイラー社からも同名のウイスキーが出されているが、それとはもちろん別。しかし回収されたウイスキーは12本だったそうだから、目減り分も考慮すると単純計算で1本当たり5ミリリットル程度しか含まれていないことになる。まあそんなもんだろう。この場合大事なのは味ではなく、あくまでも気分だからね。
スプリングバンク蒸留所とグレンガイル蒸留所の操業を最長2年間停止するという記事を7月2日に書いたが、来年の前半には操業を再開するらしい。
停止の期間が短縮されるという話は日本の代理店を通じて以前から耳に入っていたが、今月の21日、生産責任者のフランク・マクハーディ氏からの正式な通知が関係者に届いたという。以下はその内容だ。
“私たちがスプリングバンク蒸留所とグレンガイル蒸留所の操業停止という難しい判断をくだしてから、約半年が経とうとしています。電気、オイル、樽、そして大麦等の価格高騰が、操業を一時停止せざるを得なかった理由でした。また当時はスティルハウスの屋根も交換が必要でしたが、その修理はすでに終わっています。ウェアハウスは樽でほぼいっぱいだったのですが、世界中の需要に応えるためにボトリングを続け、今はウェアハウスのスぺースに余裕ができています。私たちは半年前、「原料市場の動向はずっと見守り続けていく。」と申しました。そして今、両蒸留所の操業を2009年の前半から再開することを表明します。
公共料金の価格は最近劇的に下がりました。操業を再開するなら、この機を逃す手はありません。最近ひとりのウイスキーライターが、J&A・ミッチェル社を『炭鉱のカナリア』に例える記事を書きました。ご存じのように、炭鉱夫が坑内で有毒ガスを感知するセンサーとして使用していたカナリアです。私たちは充分早い時期に警告の信号を感知し、ブランドと会社を守るために賢明に行動したと考えています。創業以来180年間蒸留を続けてきた私たちの蒸留所は、ウイスキー産業の中で起きる状況の変化にどう対処すればいいのかよくわかっているのです。
今年私たちは、地元農家のロバート・ミラーさんに25エーカーのオプティック種大麦の栽培を依頼しました。収穫した50トンもの大麦は現在大麦収納用ロフトに置かれ、休眠期間が終わって発芽の準備が整うのを待っているところです。ディスティラリー・マネージャーのスチュアート・ロバートソンは彼の弁当箱だと勘違いされてもおかしくないような、小さなプラスチックの食器でできた『ミニスティープ』で大麦の浸麦を毎週行なっています。大麦にひとたび『目覚め』が起こり発芽できる状態になったら、私たちはモルティングに着手します。すでに麦芽保管ボックスに収納されているその麦芽の詰まった地元産大麦は、とても喜ばしいことに、私たちの両蒸留所で最大で来年半年間のアルコール生産を約束するものなのです。
F. McH.”
“ひとりのウイスキーライター”とは、「モルトアドヴォケート」のジョン・ハンセル氏のことだ。同誌の最新号にスプリングバンクを炭鉱のカナリアに例えた記事を書いている。
フランク・マクハーディ氏は、オフィシャルサイトの中でもこの件に関する手記を載せているので、その訳文も載せておくことにする。
“私たちが操業の中止を決定したときに多くの方々からコメントをいただいたことは、きっとあなたも覚えていらっしゃるでしょう。「炭鉱のカナリア」と比喩されたばかりでなく、経験が浅く浅慮な一部の同業者には仕事を投げ出したおかしな会社だと、恐らく思われていました。
しかし変わった(ODD)会社だと思われていた正にその事実が、私たちにあるアイディアを与えてくれたのです。『ODDという言葉が、何かのスローガンの頭文字にならないだろうか・・・?』
そこで私たちはいくつか考えてみました。ピートは『Oldest Distilling Dynasty (最古の一族経営蒸留所)』はどうだと言ってます。私は、蒸留業者がしばしば祈る‘今日も我々に一杯が賜れんことを’という言葉から、『One Daily Dram』を思いつきました。
皆さんからもスローガンを募集したいと思います。そして2009年1月31日に、このコンペティションの優勝者を発表し表彰する予定です。優勝者には、彼の作ったスローガンが印刷されたラベルのスプリングバンクを1本差し上げます。
また、来年に東京で開かれるウィスキーマガジン・ライヴのセールススタッフのために、スローガンがプリントされたTシャツも作ろうと考えています。
どうかあなたの作ったスローガンをinfo@springbankwhisky.comまで送ってください。私たちのブログでは、1月末の発表に先がけて最優秀作品の発表を行なう予定です。”
「経験が浅く浅慮な一部の同業者」というのは、恐らくブルイックラディのマーク・レイニア氏のことだと思う。彼の「おかしな会社だ」というコメントに対してユーモアで切り返した形だが、何となく痛々しく感じてしまうのは私だけだろうか? ともあれ、私も考えてみようかな。
スコットランドのちょうどエジンバラとグラスゴーの中間に、ファルカークというマーケットタウンがある。モルトファンにはローズバンク蒸留所がある町としても知られるが、今年の4月24日付けのファルカーク・ヘラルドという地方紙にローズバンク・ファンには朗報となる記事が載った。記事の内容は、ファルカーク・ディスティラリー・カンパニーという会社が、ローズバンクの後を継ぐ新しい蒸留所の創設に向けて動き出しているといったもの。ローズバンクはローランドモルトの中でも随一の人気を誇るシングルモルトだ。1993年にディアジオ社によって閉鎖され、すでに15年もの年月が流れている。
その後新蒸留所に関するニュースはとんと流れてこなかったのだが、9月13日付けのサンデー・ヘラルド紙に久しぶりに関連記事が載った。それによると計画は進められてはいるのだが、大方の予想通り、新蒸留所に「ローズバンク」の名を譲る気がないことをディアジオ社が明らかにしたらしい。ローズバンク蒸留所は現在売りに出されているので、それを丸ごと買い取れば「ローズバンク」の名をどのように使おうがもちろん構わないわけだが、ファルカーク・ディスティラリー社は資金的にそれができなかったのだという。
そもそもローズバンク蒸留所が閉鎖された理由のひとつは、敷地を分断する道路が敷かれたことだと言われている。交通量が多いときには蒸留所の運営に支障をきたしたそうで、場所を移さない限りは操業再開の可能性は低そうだ。また現在、建物の一部はチェーン店のレストラン・パブとして利用されており、すでに見限られている感を一層強くする。
新蒸留所の建設予定地は、同じファルカーク市内のローリーズトン(Laurieston)という、現在の場所から直線距離で約7キロメートルほど離れた場所だという。ローリーズトンと言えば、かつて同名の蒸留所(Lauriston, 1821-1826, 転居先の地名とは少し綴りが違う)がファルカーク市内で操業していた。1826年に閉鎖されたが、同年に場所を移してキャメロン蒸留所(1826-1861)に操業が引き継がれている。そのキャメロン蒸留所が閉鎖した後に、建物と敷地はローズバンク蒸留所がすべて買収したという。ローリーズトンという名前とローズバンクとの間にはそんな因縁めいた話もあるのだが、もしかしたら偶然ではなくファルカーク・ディスティラリー社がこだわりを持って選んだ土地なのかもしれない。
ディアジオ社のスポークスマンは、「新蒸留所の設立に、私たちが何かのお役に立てればよいのですが・・・。ただ、ローズバンクの‘商標’を手放す気はありませんし、今後もその予定はありません。」とのコメント。まだまだ原酒を抱えているディアジオ社の、ブランド名だけを譲るというわけにはいかないという主張は、まあ当然と言えば当然だ。
ファルカーク・ディスティラリー社のフィオナ・スチュワート女史は、次のように言う。「2、3年前からローズバンク蒸留所が売りに出されていることは知っていましたが、私たちには買収することができなかったのです。そこで、蒸留所に捨て置かれている設備の一部をもらい受け、新しい蒸留所で利用しようと考えました。具体的に言いますと、ポット・スティルやマッシュ・タン等の設備です。」
また彼女は、「ローズバンクの名を使えないのであれば、私たちは『ファルカーク』を蒸留所の名前にしようと考えています。すなわちそのことは、あと数年の内にローズバンクという名の蒸留所が消えてしまうことを意味するのです。そうなれば、ファルカークの歴史の一部は失われることになるでしょう。」ともコメントしている。ローズバンクの名にこだわりたい気持ちはよく分かる。でも、こういうケースではあきらめるしかないかな。
ローズバンクの設備を再利用するとはいえ、キャラクターをどこまで蘇らせられるかについてはかなり微妙だと思う。ただ、ローランドの伝統的な3回蒸留を行なう蒸留所がひとつでも増えることには間違いなく意義があるし、個人的にも嬉しい。ちなみに新蒸留所オープンは、当初は2009年の4月を予定していたがどうやら2010年にずれ込みそうだとのこと。