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スプリングバンク蒸留所とグレンガイル蒸留所の操業を最長2年間停止すると、先週の金曜日にJ&A・ミッチェル社が発表した。原料と燃料の価格高騰が理由だという。
この操業停止により42名のスタッフのうちの7名は、例え任意であるにせよ強制的であるにせよ職を失うことになるらしい。ミッチェル社のセールス・マーケティング部門の責任者であるケイト・ライト女史は、「このアナウンスを聞いて、スタッフは皆強いショックを受けています。ほとんどのスタッフは、10年から15年にわたってここで働いています。ですのでこの決定を、決して軽い気持ちでは受け取れませんでした。
私たちのような零細企業にとって、昨今の原料価格の高騰はあまりにも急激すぎました。もし他の蒸留所が私たちと同じような措置をとったとしても、少しもおかしなことではありません。スプリングバンク蒸留所は180年もの間どこの企業にも買収されず、独立した家族経営で運営されてきました。大事なことは、今後もそれは変わらないということです。」と、コメントしている。
またライト女史は、「スプリングバンクのウイスキーは熟成するのに最低7年を要します。そのことから考えて、操業を止めていてもビジネス的に影響が出ない最長期間は2年なのです。私たちは今後、ウイスキーをこれまでの90%の出荷量で、国内および国外の市場に出していくことができると思います。」とも述べている。
しかし、SWA(スコッチ・ウイスキー協会)のキャンベル・エヴァンス氏は、「インドや中国、南米市場の拡大しつつある需要に背を向ける、理解に苦しむ判断です。」と、この操業停止の決定に首をひねる。
またブルイックラディ蒸留所のマネージング・ディレクターであるマーク・レイニア氏も、「奇妙な人たちが下した、奇妙な判断ですね。そんなビジネスは他に見たことがありませんよ。もちろん大麦と燃料価格の高騰は、ブルイックラディ蒸留所にも打撃を与えました。しかし過去6年間、私たちは増産に増産を重ね、今年は年間700,000リットルもの生産ペースで蒸留を行なっています。それに比べ、スプリングバンクの生産量は私たちのよりはるかに少なく、年間わずかに150,000リットル程度ではありませんか。」と、厳しいコメントだ。
2006年にキルホーマン蒸留所が逆風も顧みず創業し頑張っていることを思えば、確かにスプリングバンクの判断はちょっと弱気であるようにも思える。ただ当事者である彼らの考えも、やはり尊重はすべきだろう。しばらくは動向を見守りたい。
昨年の秋に予告された通り、近々ハイランド・パークの40年物が発売されるらしい。ウイスキーというジャンルにおいて40年もの間樽で寝かせることは、限界に挑むということにほぼ等しい。過去にリリースされたこの蒸留所の長熟物は、押し並べてできがいいので今回も楽しみではあるのだが、40年という長さにはやはり一抹の不安もある。“熟成過多”という負のベクトルに対し、どれだけ耐えられたのか興味のあるところだ。さて気になる価格だが、899ポンド(約180,000円)だとのこと。いやはや・・・。
ハイランド・パークの海外マーケット管理を担当するジェーソン・クレイグ氏は、今回のリリースについて次のようにコメントしている。「ハイランド・パークは、長い年月にわたりいい熟成の仕方をするウイスキーです。私たちは、ウイスキーの愛好家たちとこれらの素晴らしい長期熟成のウイスキーを分かち合いたいと考えています。長く寝かせた樽に恵まれているということは、長期熟成のウイスキーを入手困難な限定バージョンとしてではなく、コンスタントに提供できるということでもあります。私たちは、コレクターズアイテム色やその希少性などを強調することなく、最上級のウイスキーの位置づけをしていきたいのです。」
「ハイランド・パーク40年の熟成は、リフィルカスクのなかでほぼ完成されています。リフィルカスクとは、再利用された樽という意味です。もしリフィルカスクを使わないでファーストフィルの樽で寝かせていたら、樽からもたらされる甘み成分は、きっと過分なものになっていたでしょうね。」
「ハイランド・パーク40年の長期熟成の本質は、達成されたその完璧なバランスです。またハイランド・パークのすべての製品に共通するように着色はされておらず、天然そのままの色です。すなわちリフィルカスクを使用したおかげで、銅のような青みを帯びているのです。アルコール度数は、このクラスのものとしては比較的高い48.3%で、その風味を最大限に湛えています。」
“コレクターズアイテム色や希少性などを強調することなく”とは言うものの、それを価格以外で示す方法があるのだろうか? もう少し具体的な説明が欲しいところではある。言葉だけではなく、ぜひ行動で示して欲しいものだ。
この40年物のテイスティングノートだが、製造部門担当のマックス・マクファーレン氏のものが公表されているので、要約して転載させていただくことにする。
色 |
深い。琥珀と銅の色調。 |
アロマ |
スパイシー。リッチで色の濃い果物、ナツメグ、ビターチョコレート。 |
フレーバー |
甘いトフィ、ダークチョコレート、天日乾燥のオレンジ、 |
フィニッシュ |
リッチで長く、上品。スモーキーで驚くほど甘い。 |
3年ほど前、ウイスキーにはポリフェノールの一種であるエラグ酸が大量に含まれており、痛風の予防や治療に効果があるという話題がニュースになった。だがウイスキーは、人間の病気ばかりでなく地球が侵されている病までも治してしまうのだという話が、今話題になっている。
スコッチ・ウイスキーの製造過程で生み出される副産物を利用して汚染された土壌と水を浄化する革新的な技術が、スコットランドのアバディーン大学(University of Aberdeen)で開発されたという。その名も『DRAM』(笑)。なぜ可笑しいのかと言えば、説明するまでもないと思うが、スコットランドで「dram」と言えば杯(さかずき)を意味する言葉だからだ。例えばよく使われる「A wee dram」というフレーズなら、「ほんの一杯のウイスキー」といった意味になる。浄化技術の方のDRAMは、“Device for the Remediation and Attenuation of Multiple pollutants”のイニシャルを並べたものらしい。もし、偶然の一致だと言われたら正直訝らずにはいられないが、例え恣意的なものがあったにせよ命名者に座布団一枚はあげたいところだ。
さて気になるのはその副産物だが、現時点では明らかにされていない。浄化の技術そのものについても、現時点ではアウトラインさえ明かされていない。ただ、将来にはウイスキーに限らず他の飲食物の副産物にも、この技術は応用できる可能性があるという。またこれまでネックだった、かかる時間とコストの問題をある程度解決できたこともこの技術開発の大きな成果らしい。なお現在、副産物はグレンフィディック蒸留所の協力を得て、提供を受けているとのこと。
世界で環境の汚染が深刻な地域は少なくない。この技術が、なるべく早く実用化されることを望むばかりだ。
『モルトアドヴォケート』のジョン・ハンセル氏の2月26日付けのブログに、キニンヴィに関する記事が載った。来月の27日にロンドンのヒースロー空港にオープンする『ターミナル5』を記念して、オフィシャルのキニンヴィ17年が500本限定で発売されるという。ファーストボトリングではないのだが、幻のモルトと呼んでさしつかえないキニンヴィのリリースはちょっとしたニュースだ。ちなみに、空港内の免税店のみでの取り扱いとなる模様。
製品名は『へーゼルウッド・リザーブ(Hazelwood Reserve)』になるという。へーゼルウッドの名でのボトリングは3回目となるが、すべてがキニンヴィのシングル・モルトというわけではない。
Real Identity | Bottled | Age | Alc. | Out Turn | Sup. | |
Hazelwood (1st Edition) |
Vatted Malt |
2001 | 20 yo |
50 % |
? | not for sale |
Hazelwood 105 (2nd Edition) |
Kininvie Single Malt |
2006 | 15 yo |
52.5 % |
About 1,500 |
|
Hazelwood Reserve (3rd Edition) |
Kininvie Single Malt |
2008 | 17 yo |
? | 500 |
またプレスリリースには、「ドライフルーツと、強烈なオーク風味のスパイスを伴ったナッツの香り。」といったテイスティングノートが記されているらしい。
さて価格だが、700アメリカドル(およそ74,000円)だそうな。これは苦笑するしかあるまい。まあ、コレクターズアイテム的な要素を考えればありえない価格ではないのかもしれないが、近年のプレミアム系シングル・モルトの価格高騰ぶりには本当に閉口する。
なおへーゼルウッドというのは、キニンヴィ蒸留所の近くに建っている屋敷の名称だという。ウィリアム・グラント&サンズ社の創業者ウィリアム・グラントの孫娘であるジャネット・シード・ロバーツ女史(今年の8月でなんと107歳の誕生日を迎える!)が、1993年以来住んでいるとのこと。
モンキー・ショルダー(ウィリアム・グラント&サンズ社が所有する3つの蒸留所、グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィの原酒だけから造られているモルト・ウイスキー)は、なかなか秀逸なヴァッテド・モルトだと思う。ファーストボトリングのキニンヴィ(すなわちへーゼルウッドの2nd)の評判は決して芳しいものではなかったが、本来の実力ではなかったのだと思いたい。セカンド・キニンヴィには、価格に相応しいパフォーマンスをぜひ見せて欲しいものだ。
好景気を続けるロシアだが、どうやらその資本がスコッチ業界にも投入される運びになりそうだ。ロシアのある事業団体が、グレングラッソ蒸留所の買収をめぐってエドリントン社と交渉中だというニュースが、昨年末から年始にかけて流れてきている。業界筋によれば、交渉はすでに大詰めの段階だという。
国家資本主義体制のもとに創設された国策会社が、蒸留所のオーナーとなるその歴史的な意味合いは大きい。企業の乗っ取りが横行しているだとか、元スパイが毒殺されただとかいう話を聞くたび、この国は相変わらずなんだなと思う。蒸留所のカラーが、某蒸留所のように大きく塗り変えられないことを祈りたい。
またそんな好景気に後押しされ、ロシア国内でのスコッチ人気もかなり熱を帯びてきているという。2000年には前年の5,000,000ポンドだった輸出額が20,000,000ポンドにまで跳ね上がり、2005年には25番目に重要な輸出相手国となったという統計も出ている。ちなみにロシアで売れているシングルモルトの4大銘柄は、グレンフィディック、マッカラン、グレンモーレンジ、そしてブルイックラディだとのこと。ロシアでジャパニーズ・ウイスキーの人気が高まっているという記事(2007年7月13日付け)を半年ほど前に書いたが、ローカルなカテゴリーには収まりきらないほどこの国のウイスキー人気は熱いようだ。
さてグレングラッソといえば、フェイマスグラウスやカティサークといった有名どころのブレンデッド原酒としては知られる銘柄だが、シングルモルトはあまり見かけない。というのも、元々ほとんどがブレンデッド用として使われていた上に、操業を停止していた時期も多かったためシングルモルトとして出回っている量はごくわずかなためだ。ウイスキーライターのチャールズ・マクリーン氏は、「オーナーが話題にしない蒸留所」なんていう辛辣な批評をしている。
これまでに当方が飲んだグレングラッソは恐らく10種類程度に過ぎないが、いずれのボトルもまずまずの仕上がりだったという印象を持っている。THE Whisky World 誌上で2006年ベストウイスキーに選ばれたのもグレングラッソだった。閉鎖されてしまう蒸留所というのは、得てしてクォリティ面にそれなりの原因があったりするものだが、この蒸留所は数少ない例外のひとつだと個人的には位置づけている。ウイスキーライターのエリザベス・ライリー・ベル女史も、グレングラッソ蒸留所を「隠れた宝石」だと評している。マクリーン氏と違ってよくわかってるねえ、彼女は(笑)。