エムズ・ウイスキー・ダイアリー サイレント・モルトは、モルトにあらず?
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loch_lomond.jpgロッホ・ローモンド蒸留所はいろいろな意味でユニークな蒸留所だ。SWA(スコッチ・ウイスキー協会)には加盟しておらず、一貫して独自の路線を歩んでいる。彼らのユニークな点のひとつが、いわゆる“サイレント・モルト”を製造しそれをモルト・ウイスキーとして扱っていることだ。

サイレント・モルトとは麦芽を連続式蒸留器で蒸留した「モルト“100%”ウイスキー」のことで、ポット・スティル(単式蒸留器)とは違い高い純度で蒸留される。そのため原料由来の香味に乏しく、サイレント・モルトなどと呼ばれている。

しかしこれは、スコットランドでは歴史の中で淘汰されてきた手法でもある。例えばキャメロンブリッジ蒸留所では、1880年から1929年にかけてのほぼ半世紀、サイレント・モルトを製造していたという記録が残されているが、結果的には失敗だった。「麦芽はポットスティルで蒸留するもの」という不文律は、スコッチウイスキーの長い歴史で育まれた“伝統”なのだ。そしてこのサイレント・モルトを、“モルト・ウイスキー”と呼ばないことは世界中で共通した認識でもある。

さて、そのロッホ・ローモンド蒸留所が、この6月から施行されるスコッチウイスキーの新法のからみで苦慮しているという。すなわち、サイレント・モルトのカテゴリー分けに関してである。新しい法定義では、販売するウイスキーには5つのカテゴリー、「シングル・モルト」、「シングル・グレーン」、「ブレンデッド」、「ブレンデッド・モルト」、「ブレンデッド・グレーン」のいずれかをラベル等に明記することが義務付けられたからだ。

法律で定められたからには、これまでのような「サイレント・モルトもモルト・ウイスキーのひとつ」という蒸留所独自のルールは通用しない。そこでロッホ・ローモンドはSWAに対し「第6番目のカテゴリー」の設置を提案するという策を講じたのだが、SWAの返事は彼らを落胆させるものだった。

ロッホ・ローモンド蒸留所マネージャーのジョン・ピーターソン氏は、この一件について次のようにコメントしている。「スコッチのカテゴリー定義の変更により、弊社は不公平な扱いを受けることになります。100%大麦麦芽を原料に造られた(サイレント・モルト)ウイスキーが、連続式蒸留器で蒸留されたというだけの合理性を欠く理由でグレーン・ウイスキーとして分類されることになるからです。エネルギー効率という観点からは、ポット・スティルで2回蒸留するよりも連続式蒸留器で1回蒸留する方が優れています。正当な理由のもと、私たちは革新的なウイスキー造りを行なっているのですが、SWAはそういった技術的な面にはとんと興味がないようです。」

ピーターソン氏によれば、彼らが出す多くのブレンデッドにサイレント・モルトが含まれているとのこと。また「ロスデュー (Rhosdhu)」というブランド名で、サイレント・モルトを長期にわたって販売する計画もあるという。生産すること自体は違法ではないので問題ないのだが、モルト100%の「ロスデュー」をシングル・グレーンとして売らなければならないのは大いに不満ではあろう。かつてはオールド・ロスデューの名で5年物のシングル・モルト(ヴァッテド・モルトだという噂もあった)が発売されていたが、現在は製造されていないようだ(これもサイレント・モルトだったのだろうか?)。改めて「オールド・ロスデュー」の名が復活するのか、単に「ロスデュー」としてリリースされるのかは不明。

まあ、ロッホ・ローモンドの主張もわからないではないが、この件ではSWAは英断を下したと思う。やはり、麦芽の香りがあってこそのモルト・ウイスキーだろう。低価格であるのは歓迎すべきことだが、この件での大事な論点は決してそこではない。ホワイト・スピリッツと大差ないといわれてもおかしくないサイレント・モルトが、「モルト・ウイスキーに準ずる酒」のように扱われることには私は違和感を覚える。

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 1998年、ウェブサイト『M's Bar』を開設。2005年、ウイスキー専門誌『THE Whisky World』の発足メンバーとして参加、現在同誌にてテイスティングコメントや記事を連載中。また昨今はウイスキー関連のイベントでウイスキーアドバイザーを務めるかたわら、楽天市場ラウンジのウイスキー・ショッピングソムリエ・ブログの執筆にも勤しむ。著書に、サイエンス・アイ新書『うまいウイスキーの科学』がある。
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